ススギ(濯)

プロジェクト概要

  • 6名の男女(20~30代)の俳優を募集
  • スタジオで稽古後、簡易公演して映像撮影・相互コメント
  • 映像をユニットWEBサイトで公示
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登場人物

  • 拓海(たくみ)
  • 陽菜(ひな・幽霊)

場面設定

2027年の11月。冬になりきれない秋の名残。
拓海のアトリエ。

シチュエーション

拓海は美大生、22才。西洋油彩画を学び、特に人物画を専門にしている若き芸術家。藤島武二の絵を見て画家になることを決めた彼は、写実を継承しつつ、人物の内面を描こうとしている。

彼の部屋。2LDK。武蔵野地方に築27年の木造アパートを借りている。寝室には机とベッド、アトリエには時計さえない、カンバスと道具入れしか置かない。西日が差す。

卒業制作。学内コンクールで優秀賞を複数回取っている拓海の作品は注目されており、担当教授の指導も厳しい。途中まで製作していた、神田明神に、元旦の明け方歩いていく、着物姿の女性の絵をほぼ完成させて提出したが、「こんなもんじゃないでしょう」というよくわからない評価で中間講評を終え、このままでは絵で生きていく道は閉ざされそう。顔の部分を削って、リテイクすることにした。そんな時。

陽菜は事故で亡くなる直前、インスタグラムのアカウントを消しました。やりとりは全てDMとポストだったので、陽菜の写真は、もう見られない。それが、彼女の狙いです。1年経った今、拓海は、思い出せなくなってるんじゃないか?と疑っていて。そして、フィジカルな幽霊として、彼のアトリエに現れました。

本編

(スクロールでプレビュー)

武蔵野市のアパート。広いが、古い。でも、自然と汚くはない。そんな部屋。風は通り、油性絵の具の匂いを運ぶ。西日が差して。

最低気温は6℃だったが、最高気温は15℃まであがる。秋と冬の間の、名前を与えられていない5つ目の季節。最高のデート日和だ。卒業課題として製作した油絵は、顔の部分だけが、書き直しの為に削られている。

拓海、椅子に座ってカンバスとにらめっこ。不満そうに絵を見る。
陽菜、少し離れた所におかれた椅子に座って。暇そうにしている。

陽菜 描かないの?

拓海 描くよ

陽菜 描けないんでしょ

拓海 うるさい

陽菜 きみは、相変わらず口が悪いね

拓海 口なんかどうでもいい、描くのに使わないから

陽菜 はぁ。何を悩んでるの?

拓海 肌。変だろ

陽菜 全然。すっごくうまい

拓海 嘘つくな

陽菜 もー。どこが気に入らないの?

拓海 元旦の明け方

陽菜 に描けてるじゃん。この子、ちゃんと寒そう

拓海 それじゃつまんね

陽菜 なんで?

拓海 だって、元旦の明け方に、着物、だぞ

陽菜 あー

拓海 準備、大変だろ

陽菜 だろうねー。私は

拓海 もう頼まねーよ

陽菜 はぁ!?別に、他の人と行くし

拓海、陽菜を睨みつける。とても、悲しそうに。

陽菜 こっわー

拓海 (笑顔になって)そんな時だったら

陽菜 すっごく早起きするんだろうね

拓海 まだ日が昇ってない中、目を覚まして

陽菜 髪もメイクも大変だよー、和装だし

拓海 手伝ってもらうんだろな

陽菜 パパには内緒で

拓海 そんな朝に、こんな風にはならない。だろ?

陽菜 確かに

拓海 酷い絵だ。捨てるか

陽菜 きみは、ほんとうに、口が悪いね

陽菜、拓海の背中をバシッと叩く。

拓海 いってーな

陽菜 よかったね

拓海 幽霊の癖に、殴んなよ

陽菜 最近の幽霊はフィジカル強いから。知らないのはきみだけだよ

拓海 意味わかんね

陽菜、窓の外を見る。

陽菜 ねー、出かけないの

拓海 は?何の話?

陽菜 お葬式で「ずっと忘れないよ。」っていってたよね?もう彼女いるんだ

拓海、「なんで知ってるんだ。」と思って。無視して、絵を描こうとする。

陽菜 薄情者ー。たった1年も待てないの

拓海 どっちがだよ

陽菜、机の上にある拓海のスマホを奪い、椅子に戻って操作

拓海 プライバシー侵害すんな、幽霊

陽菜 逮捕されないから何でもやり放題だよ

拓海 ヤバすぎ。返せ

陽菜 はー、葵ちゃん、かわいー

拓海 見んなよ

陽菜 吉祥寺で待ち合わせ、午後5時。ここからだとあと30分で用意して出ないと、間に合わないよって、グーグルさんが

拓海 ちょ、ほんと、やめろって

陽菜 こんなかわいい子、一回でも遅刻したら他の男の子に取られるよ

拓海 別に

陽菜 よくない、でしょ。ほら、着替えな

拓海 目、いれるまで、出ない

陽菜 後で絶対後悔するよ

拓海 しねーよ

拓海、絵に目を入れ始める。丁寧に、丁寧に描いてく。
陽菜、それを見て、描いているのが自分だと気付いて。何も言えない。

拓海 なんで消したんだ

陽菜 なにを

拓海 インスタ

陽菜 だって思い出してほしくなかった

拓海 薄情者

陽菜 薄情者

拓海 何度も

陽菜 だってきみに

陽菜、言葉に詰まり、椅子から立ち上がって。泣きそうになるが。こらえて。笑顔を作り。

陽菜 覚えてるの、わたしのこと

拓海 忘れる訳ねーだろ

陽菜 うれし…

拓海 あんなインパクト強い顔(ぼそっと呟く)

陽菜 …くないなーっ!

拓海 まつ毛、長いけどばっさばさ(といって、線を引き、まつ毛を描く)

陽菜 うるさいなぁ

拓海 こっそり長めにひいてるアイライン(まぶたを描く)

陽菜 え、ばれてた

拓海 カラコン?って思うくらい茶色い瞳(瞳を描く)

陽菜 そこは自信あった

拓海 黒目が。真ん中にある(黒目を描く)

陽菜 誰でもそうでしょ?

拓海 光彩が、すごく、細かい、無駄にきれいだ(光彩を描く)

陽菜 …

拓海、絵を仕上げる。

拓海 あの日、ごめん

陽菜 きみのせいじゃない

拓海 俺が、誘わなければ

陽菜 私が、遅刻しそうで、焦っちゃったの

拓海 あんな朝早くに

陽菜 ちょっと寒かったかな

拓海 なんで、アカウント削除なんだよ

陽菜 だって、

拓海 それが最後に

陽菜 …ちゃんと、消したかった!

拓海 消したら、消えない

拓海、絵を仕上げる。

陽菜 きみは、本当に、ばかだね

拓海が仕上げたのは、陽菜の着物の姿。
一緒に元旦の朝日を見ようとしていたのだ。それが、今年の1月1日。

拓海、立ち上がって。

拓海 行くわ

陽菜 え、着替えて、髪の毛とか、ちゃんとしなよ

拓海 いい

陽菜 ダメだよ

拓海 そんなの気にする奴と、一緒にはいられない

拓海、玄関に向かい、ドアを開けようとする。

拓海 じゃな

陽菜 じゃね

拓海、出ていく。

陽菜、一人になった部屋。窓を見て。

陽菜 きみは明日を向いて

(了)

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